
2008年05月10日
text:茂木 みかほ photo:S.Kikuchi,MikahoMoteki
趣味=スキューバダイビング。
こう答えるのが当たり前になった今日。
海も、そして海の生きものも好きだけど…。
海に興味を持ったきっかけって何だったろう??ふと考えたとき、浮かんできたのが「水族館」でした。
海のない群馬県に生まれ、遊びのフィールドといったらもっぱら川や山。
そんな外で遊び回っていた小学生低学年の頃、初めて訪れた水族館が、当時ラッコを見られることで人気を博していた「サンシャイン国際水族館」でした。
水槽の前に群がる人、人、人。
いったい何が見られるんだ?眼前にうごめく人の山をかき分けるようにして、必死で前のほうへ行ってみると、そこに見えた生きものこそ、愛くるしいラッコでした。
一目見て、もう釘付け状態。
海にはこんな生きものがいるのか!?と、幼心にひどく感動したのを覚えています。
そう、水族館との出会いは海への憧れを強くしていきました。
生きものをじっくり観察できる水族館には、ダイビングとはまた違った楽しみがあります。
水槽で飼ってみて初めて気づくこともあれば、自然界ではなかなか出会えない場面を目撃できたりもする。
実際まだ私が水族館で働いていた時、初めてシロイルカが片目ずつ閉じて眠る様子や、サメの腸洗い、クラゲがクラゲを捕食するシーンなどを目の当たりにしました。
お客さんになってからも、じっくり観察できるからこそ発見できる生物の不思議に触れる度、ますます水族館の存在は大きくなっていきました。

今や水族館の存在が当たり前になり、限界はあるものの、多くの海洋生物の飼育が可能になりました。
ですがよく考えてみれば、ラッコをはじめ、海の生きものを陸上にいながらいつでも見られるのは、それらを飼育する人がいるからこそ。
まさに、生物展示を実現させているのはサカナ男、水女さんたちなのです。
その展示の影には、試行錯誤、百戦錬磨、いろんなことがあるでしょう。
だからこそ、彼らと話していると、とにかく面白いんです。
365日生きものと向き合う立場として、表には見えない努力や苦労、感動秘話などがたくさんあります。
引きつけられる展示の裏には、やはり魅力的な人物の存在があるのです。
そんな彼らの話を聞くことで、生きものや水族館の見方に奥行きが増します。
裏側にあるストーリーを知り、改めて見学してみることで、目の前の展示物が今までの何倍も輝きを増してきます。
そんな気になる飼育のエピソードを、多くの人と共感できたら面白いのに!そう思ったことがきっかけで、このコーナーを立ち上げるに至りました。
毎回、ここだけの貴重な情報も盛り込んでいくつもりです。
以下、飼育係に注目しながら、水族館や生きものの魅力を紹介していきます。

あわしまマリンパークは、「淡島」という小さな島の一角にあります。
淡島水族館の大水槽では、島の周りにいる駿河湾の生物を展示しています。
海の一部を切り取ったような造りになっていて、淡島の海で見られる自然の営みを観察できるのが特徴です。
通年、飼育生物の求愛や産卵行動までもが見られてしまうというから驚き。
2階にあるドーナツ型「ふれあい水槽」では、ウニやナマコに触れながら解説を聞くことができ、おもしろ体験ができます。
他にも、愛嬌たっぷりのアシカショーや、自然の海で繰り広げられるイルカショーなど一味違った感動がいっぱいです。
そんな中、今回注目したのは「カエル館」。
カエル展示では、国内トップクラスの実績を誇るだけに、そこは期待を裏切りませんでした。
生きものが神の創造物だとしたら、カエルたちはなんて遊び心いっぱいに作られたものでしょう、と思いたくなるほどいろんな形態のカエルがいます。
見ているだけでも楽しいのに、さらに独特の生態を知れば、カエルの面白さにハマッてゆくこと間違いなし。
その火付け役となるのが、他でもない飼育係の甘い言葉です。
「このカエルはですね…」と始まる解説を聞けば最後。
衝撃の連続で、しばらく水槽の前から動けなくなる感覚を味わえるでしょう。
カエル飼育のスペシャリストから飛び出す、数々のトリビアネタ恐るべしです。
しかも、です。
解説といえば、普通開催時間が決められていて、人が集まった時点でしてくれるものだと思いますが、ここは違います!
カエル館にはカエルを知り尽くした飼育係が常駐していて、プライベート解説タイム常時受付中なのです。
餌やり風景を積極的に見せてくれたり、質問には何でも答えてくれたり、と本当に至れり尽くせり。
なんと嬉しいことでしょう。
カエルファンのみならず、そうでなかった人も思わず得をした気分になれます。
というわけで、以下では魅力いっぱいのカエル館を紹介していきましょう。

カエル好き、水族館フリークのみなさまから、「カエルと言ったら、淡島でしょ!」と密かにささやかれている当館。
その種類や数のみならず、飼育技術には驚かされるばかり。
いかにして、これだけの数のカエルたちを、状態良く展示し続けられるのでしょうか?
その秘密を探るべく、今回はバックヤードにも潜入。
じっくりお話を伺ってきました。
館内には約50種類、100匹以上のカエルを常設展示しています。
いろ~んなカエルがいるけれど、これだけのカエルを管理するのは大変なはず…。
そこで、ずばり質問。
「カエル飼育の秘訣って何ですか??」カエル飼育歴も長い、飼育課係長・佐藤さんに聞いてみました。
「カエルたちは、基本的に生き餌しか食べません。
なので水族館では、飼育しているカエル達が食べる量を常に確保しておくことが必要になってきます。
そのため館内で餌自体を増殖させています。
これがまた手間のかかる作業なんですけどね…。
いろんな種類やサイズの餌を用意し、カエルたちの口の大きさに合わせてあげています。
生物は何でもそうだと思うのですが、色々なエサをあげないと栄養のバランスが悪くなるので、何種類かの餌を組み合わせてあげるよう心がけています。
また、水場と陸地の両方が必要な生物のため、そういう環境を考えながら水槽を作ることも大切です。
大変ですが、カエル達の住みやすさを考えて作った水槽で繁殖してくれた時は、本当に嬉しいですよ。
他にも病気でないか観察を怠らない、水槽が汚れていたら掃除をする、太りすぎや痩せすぎの個体はいないかよくみる、等々カエルたちの飼育には愛情が欠かせません。」
なるほど。
佐藤さんの言葉にはすべてが凝縮されています。
単に買ってきた餌をあげればよいというわけではないのです。
何かを飼うとき、餌の問題をクリアにすることは重要ですが、ここでは館内増殖を行うことで、コスト面、調達面で安定性を図っているようです。
そして何よりも日々の観察を怠らない。
これが大事だけどなかなか大変なことです。
まさに愛なくして、この展示は成り立ちません。
そんなことを思いながら水槽を改めて見てみると、感慨深いものを感じるのであります。

ここで、淡島マリンパークで使っている主な生き餌を、以下に挙げます。
コオロギ以外のものは館内で増やしているといいます。
カエルたち、普通に見ているだけではなかなか伺い知れないですが、結構グロッキーな餌を食べているのがわかります。
かわいい顔して、こんなモノを食べているのか!?とビックリするかもしれません。
業者から買い、大きさ別に分けて飼育していきます。
L・M・S・SS に分けていて、Lは羽の生えた完全な大人、Mはまだ羽が生えきっていないサイズ、Dは大きさ1センチくらいの物、SSは生まれたて(ゴマ粒サイズ)。
それぞれカエルの口のサイズに合わせてあげます。

「ディビュイア」と呼ばれる海外のゴキブリを使っています。
大人の大きさは6センチほど。
日本の一般家庭に出る黒いゴキブリ(クロゴキブリ)と何が違うかと言うと、ガラスなどの壁を登れないことです。
よって逃げられないから餌に向いています。
こちらも大きさによって、どのカエルにあげるかを分けています。
ヒキガエルなどには大人のディビュイアをあげ、アマガエルなどは口がそこまで大きくないので、子供をあげています。
丸まらないダンゴムシのような生物。
よく石の下なんかにいます。

細いイモムシみたいな生物。
餌としては栄養が偏っているので、あまり使用していません。
エサ用、実験用の小バエというのがいて、ここで使用しているものはエサ用のハエ。
羽が無いもの、あっても飛べない物を繁殖させています。
増えたハエをそのまま水槽に入れておけば、カエルは食べていきます。
以下、佐藤さんより
「金魚のエサみたいに長期保存できないですし、常にエサ生物の繁殖を考え維持していかなければならないので、かなりの手間です。
最近は、ヤドクガエルのエサとなるショウジョウバエの培地にダニが湧き、ショウジョウバエ全滅の危機です。
このように活餌の安定維持というのが大きな課題となってきます。」
展示生物のみならず、餌生物の飼育管理も重要な仕事なのだなぁ、と思い知らされました。
どうすればスムーズに餌生物を増やせるか?この辺をマスターするには、やはり長年の経験が必要になってくるのでしょう。
生きものと付き合うのは、マニュアル通りにいかないことが多い現実を教えられます。
しかし、それを乗り越え、うまくいったときの喜びはひとしおなのでしょう。
生き餌以外に、ピンクマウス(冷凍された生まれたてのハツカネズミのこと)、アカムシ(イモリなどにあげる餌)、イカ・オキアミ(ウーパールーパー親用の餌)なども使用しています。
下の写真は、両生類担当者・八木さんの作業風景。
適当な材料を見つけてきて、切ったり塗ったりしながら、目的の形にしていきます。
この時は、カエル館でクイズの回答を集めるためのボックスを作成中。
飼育以外のこういった作業も仕事の一部なのです。

たくさんいるカエルの中から、選りすぐりのカエルたちをド~ンとご紹介します。
それぞれの写真をクリックすると大きくなり、その左下には、佐藤さんはじめ、カエル飼育担当者のコメントが入っています。
飼育下ならでは見られる特徴も入っているので、楽しみながら見ていただきたいです。
そしてお気に入りが見つかったら、ぜひ実物をみに行ってみましょう。

アジアジムグリガエル
イシカワガエル

ミツヅノコノハガエル

アルビノツノガエル
アジアウキガエル
クツワアメガエル
コモリガエル
モウドクフキヤガエル
館内にある解説板も注目すべき点です。
子どもが見ても興味をそそられるようなデザインが施されています。
難しい言葉を使わずわかりやすく説明されているので、生物の特徴がすんなり頭に入ってくるのが嬉しいところ。
水槽脇に添えられた「カエルスタッフのヒトコト」などは、つい吹き出してしまいそうなおもしろネタがゴロゴロ。
注意して見てみると意外な発見があるかもしれません。

あわしまマリンパーク
飼育課係長:佐藤 充さん

「楽しみながら、生き物の不思議を発見できる場所」
デートや家族旅行でなんとなく立ち寄った、という理由でも充分です。
でも、そこで生き物の不思議に触れ、少しでもその世界に興味を持ってもらえる展示をすること、それが水族館で飼育に携わる者の仕事の一つと考えています。