連載「珍魚・変魚発見隊」第二回

珍魚・変魚発見隊

2016年3月15日

毎月一回 各隊員が綴る珍魚発見記

これは、珍魚との出会いを求め、海を駆け巡る魚マニア(発見隊)のストーリー。
幼魚から深海魚まで、彼らは見たこともない魚を求め、各地を飛び回る。
磯に漁港に、魚屋に……。魚の気配がある場所は、目を光らせて観察し、目ぼしい魚を見つければ、どこまでも追いかけてゆく。水の中でもなんのその。
今日もどこかで、誰かしら、珍魚と出会いに感涙する……。

そもそも”珍魚”とは何なのか?辞書には、「珍しい魚」、英語では「rare fish」とある。なかなかお目にかかれない魚、ということだろう。ここではさらに、隊員たちが発見した見た目が変わった魚「変魚」も含め、紹介しようと思う。
珍魚(変魚)探しは、隊員たちにとって、まさに宝探しのようなもの。出会えた時の感激は、言葉では言い尽くせない。

ところで珍魚や変魚、いったいどこに行けば会えるのか?実は、意外とその辺にいる。少なからず、隊員たちは、そういう場所をよく知っている。
何も深海まで行かなくても、ちょっと意識を傾けるだけで、その辺の海で、誰でも珍魚・変魚に会うことができるのだ。
ここに登場する隊員は、水族館の飼育係、岸壁採集家、磯観察のスペシャリストをはじめ、とにかく生きもの好きな人、海あそびを得意とする人たちだ。
水場があれば、すかざす覗き込む彼らはまた、”観魚人(うおノゾキスト)”と呼ばれることも。
彼らがこっそり体験しているディープな世界を覗いてみよう。(毎月15日掲載予定)

隊員2号:岸壁採集家・鈴木香里武さん

岸壁で採集する鈴木香里武さん

海中を凝視する香里武さん。魚に合わせて何種類もの網を使い分ける

 

観魚人(うおノゾキスト)ですって? こんなにも僕にピッタリな言葉、今まで聞いたことがありません。うむ、俄然やる気が出てきたぞ!

はじめまして。“哺乳びん片手に魚捕りアミを構えていた男”、“どんなに綺麗な景色を前にしても足元の海面ばかり見ている男”、“海面を凝視しすぎて目が偏光グラスになってしまった男”こと、岸壁採集家・鈴木 香里武(すずき かりぶ)です。

これまで、生まれて24年間、毎年毎年漁港の海面を見続けてきました。それはそれは様々な魚に出逢いました。その中から、今日はほんの少しだけご紹介しましょう。

我々岸壁採集家は、よくこんな質問をされます。「そもそも魚なんて上から見えるの?」と。冒頭に書かれている通り、その答えは我々の意識次第、求め方次第なのです。見えると思えば見える。いると思えばいる。それが、漁港での魚との距離感です。
そうは言っても、やはり出逢うためのポイントというものはあります。実際に出逢ったとある珍魚を例に、今僕の中でホットな、一風変わった観魚ポイントをお教えします。

 

猛毒クラゲに身を隠す「エボシダイの幼魚」

エボシダイの幼魚

メタリックブルーの輝きを放つ香里武さん宅のエボシダイ幼魚。体長約7cm。 撮影:荒俣宏

 

ある暑い暑い夏の午後。網とバケツを持って出かけた馴染みの漁港。海面を埋め尽くしていたのは、ご存知、カツオノエボシ。青い水餃子から巻き巻きコイルが伸びたような風貌の、繊細で儚げで芸術的に美しい超強烈猛毒クラゲです。
例年ある時期になると、よく浜辺に打ち上げられてニュースになりますが、大群で港を泳ぐ姿を見ることはあまり多くありません。採集仲間でもある両親と、「今日海に落ちたら死ぬね~」なんて話していました。そう、サラッと言いましたが、漁港は楽しい反面、危険に満ちた場所でもあるのです。海あそびをするときには、最低限の知識は必要ですね。

僕はクラゲを見ると萌えます。じゃなくて、燃えます。なぜなら、触手の間に深海魚の幼魚が隠れていることがあるからです。はい、一風変わった観魚ポイントというのは、ズバリ、クラゲです。
アジの仲間やイボダイの子など一部の魚は、稚魚~幼魚期をクラゲと共に過ごします。触手の毒で他の魚から守ってもらっているのですね。なかなかチャレンジャーですね。

さて、話を戻しまして…カツオノエボシが大量発生している港で、まず探すのは、アオミノウミウシとエボシダイ。どちらも憧れです。するとどうでしょう! いるじゃありませんか! クラゲたちからちょっと離れた港の隅っこに、腹びれを扇子のように広げて泳ぐ美しきエボシダイが! 感動しました。図鑑でしか見たことがなかった珍魚が、今目の前に。
こういう時、手が震えるものですが、そこはなんとか気持ちをおさえて網でそっとすくいました。

 

上から見たエボシダイ

上から見たエボシダイ。扇子のような腹びれが美しい! 撮影:荒俣宏

 

採集家にもいろいろなタイプがいまして、写真撮影してから海に逃がしてあげる人も多いようです。でも僕は、我が家に連れ帰って水槽で大切に育てるタイプです。もちろん、このエボシダイも。
飼育の最初の難関が、エサを食べさせること。ショップで売られている個体と違い、海から連れてきた子は、環境の変化が大きいため、最初はなかなかエサを食べてくれません。特に、エボシダイのような飼育例の少ない魚は、なおさら大変。何を食べるかすらわからないのですから。
でも、このエボシダイはいい子でした。水槽に入れたその日から、冷凍ブラインシュリンプをバクバク食べました。

 

その時の映像がこちら

【エボシダイ】
学名:Nomeus gronovii
スズキ目エボシダイ科。
全世界の温・熱帯域に分布。
成魚は水深200m~1000mの底層に生息、幼魚はカツオノエボシの触手の間に隠れている。

 

ちなみにこのエボシダイ、大きくなると深海に下りていく魚です。近い仲間にその名もクラゲウオという魚がいて、同じように幼魚期をクラゲについて過ごし、成長と共に深海魚になります。こうしたクラゲにつく魚は実に見つけにくいのですが、この年の夏、なんとほぼ同時にこの2種に出逢うことができました。せっかくなので、クラゲウオの写真もご紹介しましょう。

 

クラゲウオ

エボシダイに近い仲間のクラゲウオ。全身が透き通っていて美しい!

 

【クラゲウオ】
学名:Psenes arafurensis
スズキ目エボシダイ科。
三浦半島、島根県沖、長崎県沖合から東海、西部太平洋、インド洋。大西洋熱帯域に分布。幼魚のうちはクラゲと海面近くで共生している。

 

飼うと見えてくる ホウボウの成長記録

ホウボウの稚魚

まだ黒いホウボウの稚魚。体長約1.5cm。小さいけれど親と同じ顔

 

稚魚期を海面付近で過ごす深場の魚をもう1種ご紹介します。大きくて鮮やかな羽を広げて砂地を歩くホウボウ。ダイバーの方のみならず、魚を食べることがお好きな方にもお馴染みの魚でしょう。
小さい頃は、こんなふうに黒いんですね。このサイズの個体は、毎年春ごろに団体で港の海面に現れます。さほど見つけにくい魚ではありませんが、なにせ黒くて小さいので、一見水に落ちた虫のように見えるかもしれません。

飼育して観察してみると、日々いろいろな変化に気づきます。例えばホウボウなら、特徴的な足のように進化したヒレ。これで砂地を歩くわけですが、実はこの足、先に味蕾と呼ばれる味がわかる器官があり、歩きながらエサを探せるというすぐれものなんです。
ここで疑問が湧きます。はたして、成長のどの段階から味がわかるのか?
飼育観察してみた結果をご報告します。まず1.5cmの頃は、一生懸命足を動かして歩いてはいるものの、足でエサを見つけるしぐさは確認できず、ひたすら動くものを追いかけて食べます。

 

その時の映像がこちら

【ホウボウ】
学名:Chelidonichthys spinosus
カサゴ目ホウボウ科。
北海道以南、南日本、八丈島、朝鮮半島、中国に分布。
水深25~600mの泥底、砂泥底に生息。成魚は水深200m~1000mの底層に生息する。

 

それが成長し、3cmを超えた頃…胸びれの立派な羽も内側が上を向き、徐々に成魚の姿に近づく頃になると、もう足先で砂の中のエサを探ることができるようになります。味蕾の発達段階はこの頃なのでしょうか。結論を出すにはきちんとした研究が必要ですが、こうして成長を観察して新しい生態に気づくことも、観魚人の楽しみの1つなのです。

漁港はまさに宝石箱です。訪れる時期によって出逢える魚が違うのはもちろん、1日ずれるだけでも港の様子が異なります。魚との一期一会。あの感動を1度味わってしまうと、もうやめられない! 皆さんもぜひ、海にお出かけの際は、景色を見た後で結構です、足元も覗いてみてください。きっと素敵な出逢いがあるでしょう。

 

筆者プロフィール

鈴木 香里武さん

鈴木 香里武 (すずき かりぶ)

1992年3月3日生まれ。

(株)カリブ・コラボレーション代表取締役社長。学習院大学大学院心理学専攻在学中。幼少期から魚に親しみ、専門家との交流や様々な体験を通して魚の知識を蓄える。2008年、心理学の観点から観賞魚の印象や癒し効果について研究する分野「フィッシュヒーリング」を立ち上げる。日本心理学会認定心理士、カラーセラピスト、岸壁採集家。メディア・イベント出演、執筆等の活動をする傍ら、沼津港深海水族館の館内音楽企画等、魚の見せ方に関するプロデュースも行う。

 

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