連載「珍魚・変魚発見隊」第六回

珍魚・変魚発見隊

2016年7月15日

毎月一回 各隊員が綴る珍魚発見記

これは、珍魚との出会いを求め、海を駆け巡る魚マニア(発見隊)のストーリー。
幼魚から深海魚まで、彼らは見たこともない魚を求め、各地を飛び回る。
磯に漁港に、魚屋に……。魚の気配がある場所は、目を光らせて観察し、目ぼしい魚を見つければ、どこまでも追いかけてゆく。水の中でもなんのその。
今日もどこかで、誰かしら、珍魚と出会いに感涙する……。

そもそも”珍魚”とは何なのか?辞書には、「珍しい魚」、英語では「rare fish」とある。なかなかお目にかかれない魚、ということだろう。ここではさらに、隊員たちが発見した見た目が変わった魚「変魚」も含め、紹介しようと思う。
珍魚(変魚)探しは、隊員たちにとって、まさに宝探しのようなもの。出会えた時の感激は、言葉では言い尽くせない。

ところで珍魚や変魚、いったいどこに行けば会えるのか?実は、意外とその辺にいる。少なからず、隊員たちは、そういう場所をよく知っている。
何も深海まで行かなくても、ちょっと意識を傾けるだけで、その辺の海で、誰でも珍魚・変魚に会うことができるのだ。
ここに登場する隊員は、水族館の飼育係、岸壁採集家、磯観察のスペシャリストをはじめ、とにかく生きもの好きな人、海あそびを得意とする人たちだ。
水場があれば、すかざす覗き込む彼らはまた、”観魚人(うおノゾキスト)”と呼ばれることも。
彼らがこっそり体験しているディープな世界を覗いてみよう。(毎月15日掲載予定)

 

隊員6号:串本海中公園水族館・飼育係の吉田剛さん

釣りをする吉田剛さん

釣り採集中の剛さん

 

初めまして。本州最南端、和歌山県・串本町にある串本海中公園水族館で飼育係をしています吉田剛といいます。三度の飯より釣りが好きです!
あまり知られていないのですが、実は…私の勤めている串本海中公園水族館は……
日本の中でも三本の指に入るほどの「変態水族館」なんです!あ、変な意味ではなく、特殊っていう意味です。なんと、展示生物は「串本の生き物限定」。とりわけサンゴやイソギンチャク、ウニ、ヒトデ、貝、エビ、カニなどのグロ可愛い無脊椎動物推しです(笑)。
展示している生物は、釣りや潜水で捕まえたり、岸壁や磯で網を使って採ったり、漁師さんから頂いたり……、様々な方法を使って串本の海で「自家採集」しています。仕事の大半は生物採集と言っても過言ではありません!(それは言い過ぎましたが…)。
当館が変態と呼ばれる最大の理由は、半開方式の循環システムにあります。いわゆる、自然海水のかけ流しです。これによっていろんな事が起こります。ろ過せずに自然海水をそのまま使用しているので、水槽の中に入れた覚えのない生き物が度々発見されます。
他にも自然海水と一緒に入ってきた微生物が水槽を掃除してくれるので、ガラス面以外ほとんど掃除しなくてよかったり、水槽のレイアウトは自然任せ、魚の寿命が極端に長い、魚の傷の治りが早いなどなど……メリットも結構あります。
「串本の海」の一部を切り取って展示していると言えば、イメ-ジし易いかと思います。そのおかげか、魚たちはどれも長生きで、色艶がよく、イキイキしています。
そんな水族館ですから、飼育している魚達もいろいろと変わっている子(性格、行動など)が多いのでしょう。
前置きが長くなりましたが、そんな当館の「変魚」たちを紹介していきたいと思います。

 

懐き過ぎる「カンムリベラ」

 

ある日、いつも釣った魚を提供してくださる漁師さんから連絡を頂き、さっそく伺うと、傷がほとんどなく、非常にきれいな状態の「カンムリベラ」が生きた状態でいたのです!水族館に持ち帰って薬浴し、状態が良いので、いつもならそのまま展示(大水槽)に出すところを、何を思ったか一旦バックヤードの予備水槽に入れ、餌を食べるまで様子を見ることにしました。今思えば、その好意がこの後の行動に影響しているのでは?と思います。
案の定、この子は直ぐに餌付いて、アジの切り身やエビを食べ始めました。最初は警戒していて、餌を落とすと、しばらくしてからゆっくり食べに来ていましたが、徐々に慣れ、餌を落としたら直ぐに食べるようになりました。そして一ヶ月経つ頃には、飼育係が近づいただけで寄ってきて、餌をねだるようになったのです!
魚の行動には、本能に基づくもの(捕食行動、繁殖行動))や条件反射が多く、餌を与える場所、仕草などのパタ-ンを毎日同じにすることで、条件反射によって、人が来ると魚は寄って来るようになるのです(悲しいことに飼育係の顔を認識することはありませんが…)。
実を言うと、ここまではどの子(魚)もやるようになるのです。しかし、このカンムリベラはさらに人間との距離を縮めてきたのです。なんと、段々と手から餌を食べるようになり、さらには、どんなに遠くにいても水をビシャビシャやり合図をすると寄ってくるようになりました。極めつけは、合図すると手に擦り寄ってきて、頭を撫でさせてくれるまでになったのです。最近では合図をするとエサを食べたばかりでも撫でてとせがむようになってきました(笑)
どうしてこんなにも懐き、もしくは学習するようになったかはわかりませんが、ひょっとするとこのカンムリベラには情があるのかもしれませんね。もし、大水槽に入れられていたら激しい縄張り争いと、エサの争奪戦が待ち受けていたでしょうからね(笑)。

 

【カンムリベラ 】
学名:coris aygura
スズキ目ベラ科。
相模湾以南、伊豆諸島、串本、小笠原、ハワイ諸島を除く中部太平洋域に分布。
サンゴ礁や岩礁域、その周辺の砂泥域に棲息。
幼魚のうちは灰色、白、黒、オレンジが混ざりカラフルだが、成長すると黒っぽくなり、さらに成長すると、緑色となり、青緑の横帯が出てくる。また、後頭部が膨大し、背びれの第1棘が長くなる。最大で1mにもなる大型魚。串本ではよく磯釣りの外道として知られる。

 

カンムリベラ成魚

カンムリベラの成魚

 

長寿過ぎる「モンツキベラ」

彼が当館にやってきたのは、1991年。その年の7月に、一度死に直面しています。なんと隣の水槽からジャンプして、運よく現在の水槽に着水したという武勇伝があります
それから25年。
今も衰えるどころか、食欲も旺盛で、色艶もいい。小型のベラの寿命は約10年と言われています。25歳というと化け物クラスです。
餌の時間になると自分より体の小さい、もしくは気の弱い子に対しては威嚇したり、餌を横取りしたりするのですが、自分より体の大きなやつに対しては寛大で、餌を譲ったりするのです。どうやら、長寿の秘訣は世渡りがうまいことのようです。

 

モンツキベラ

25歳のご長寿モンツキベラ

 

【モンツキベラ】
学名:Bodianus Diana
スズキ目ベラ科。
伊豆半島以南、インド・西太平洋に分布。
サンゴ礁域や岩礁に棲息。
成魚は全体的に赤く、腹鰭、しり鰭、尾鰭に暗色斑、体側背方に白色点が5個あるのが特徴。

 

筆者プロフィール

吉田 剛さん

吉田 剛 (よしだ ごう)

愛知県名古屋市出身。

東京農業大学・生物生産学科卒業 。串本海中公園センタ- 水族館 飼育員 魚類担当。
幼少期から自然と触れ合うことが好きで、釣りや近所の川で生き物を採っては家にミニ水族館を作っていた。大学時代により深い釣りの世界に魅了されてフィッシングガイドやネイチャ-ガイドのアルバイトを経験。釣り好きが高じて現在の職に至る。
現在は串本を日本一のフィッシングタウンにする活動や、串本の海の魅力を伝える活動に力を入れている。

 

【吉田剛さんが執筆協力した釣り本をご紹介】

釣り本

釣りが大好きな全国の水族館スタッフたちが、釣り魚の生態を徹底紹介した一冊です。
釣りをしている時に水面下の魚の行動がわかったらどんなにいいでしょう。水族館の飼育員たちは、毎日、いろんな角度から魚を観察しています。顔を見ただけで個体が見分けられたり、餌の食べ具合でご機嫌がわかるほど、愛情を持って飼育しています。そんな水族館飼育員が釣り好きだったら、どんな視点で魚を眺めているのでしょう。
本書は、飼育のプロとしての観察眼を持つ全国21の水族館から29名の“アングラー飼育員”がこれまでにない視点で魚の生態を紹介しています。アオリイカは盲目で黒が嫌い! タチウオは底のエサも食べる! 音は摂餌スイッチ! タコのエサにらっきょうはあり! 究極のエサ作り! などなど……アングラー飼育員それぞれの目線と思考で、日常業務のなかで見た、試した、実践した釣り魚の情報が満載です。

詳細、ご注文は、こちらから。

 

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