連載「珍魚・変魚発見隊」第七回

珍魚・変魚発見隊

2016年8月17日

毎月一回 各隊員が綴る珍魚発見記

これは、珍魚との出会いを求め、海を駆け巡る魚マニア(発見隊)のストーリー。
幼魚から深海魚まで、彼らは見たこともない魚を求め、各地を飛び回る。
磯に漁港に、魚屋に……。魚の気配がある場所は、目を光らせて観察し、目ぼしい魚を見つければ、どこまでも追いかけてゆく。水の中でもなんのその。
今日もどこかで、誰かしら、珍魚と出会いに感涙する……。

そもそも”珍魚”とは何なのか?辞書には、「珍しい魚」、英語では「rare fish」とある。なかなかお目にかかれない魚、ということだろう。ここではさらに、隊員たちが発見した見た目が変わった魚「変魚」も含め、紹介しようと思う。
珍魚(変魚)探しは、隊員たちにとって、まさに宝探しのようなもの。出会えた時の感激は、言葉では言い尽くせない。

ところで珍魚や変魚、いったいどこに行けば会えるのか?実は、意外とその辺にいる。少なからず、隊員たちは、そういう場所をよく知っている。
何も深海まで行かなくても、ちょっと意識を傾けるだけで、その辺の海で、誰でも珍魚・変魚に会うことができるのだ。
ここに登場する隊員は、水族館の飼育係、岸壁採集家、磯観察のスペシャリストをはじめ、とにかく生きもの好きな人、海あそびを得意とする人たちだ。
水場があれば、すかざす覗き込む彼らはまた、”観魚人(うおノゾキスト)”と呼ばれることも。
彼らがこっそり体験しているディープな世界を覗いてみよう。(毎月15日掲載予定)

 

隊員7号( 隊員2号の第二弾):岸壁採集家・鈴木香里武さん

岸壁で採集する鈴木香里武さん

魚に合わせて何種類もの網を使い分ける。中には岸壁に合わせたオーダーメイドの網も

 

第2回につづき、またもお声がけをいただき嬉しゅうございます。お久しぶりです。“哺乳びん片手に魚取りアミを構えていた男”、“どんなに綺麗な景色を前にしても足元の海面ばかり見ている男”、“海面を凝視しすぎて目が偏光グラスになってしまった男”こと、岸壁採集家・鈴木香里武です。

夏真っ盛り。採集シーズンど真ん中ですね。ただ今年は台風が来ていないためか、港に流れ藻が現れる時期が例年より遅いように感じます。「流れ藻」。どんなものかご存知でしょうか。もともと岩から生えていたホンダワラなどの海藻が、ちぎれて浮かんで、海面を漂っているものです。浮かぶためのウキのようなものが備わっているのですから、海藻もたいしたものです。我々岸壁採集家にとって、流れ藻はまるで宝箱。幼魚が身を守るためのゆりかごになっているので、中をよく見ると、カワハギやイシダイ、タツノオトシゴなどなど、色々な種類の魚の赤ちゃんが隠れています。第2回の時に観魚ポイントとしてクラゲを挙げましたが、港で一番の観魚ポイントはダントツ流れ藻です。

さて、こんなに流れ藻を持ち上げた後でなんですが…今日は流れ藻があろうとなかろうと全く関係なく現れる珍魚を2種類、ご紹介します。

 

夢か現実か!? 「タコブネの赤ちゃん」

タコブネの赤ちゃん

観察ケースの壁に貼り付くタコブネの赤ちゃん。殻の長さ2.4cm

 

僕はこれまで2回死にかけたことがあります。1回目は幼稚園生の頃、42度を超える熱が出た時。そして2回目は、つい先日のこと。港で網を持って幼魚採集をしている最中に一瞬心臓が止まった時です。その原因が上の写真の生き物。幻のタコブネの赤ちゃんを見つけた時の驚きのせいです。これまでずいぶんと多くの珍魚に出逢ってきました。深海魚の子、図鑑を見ても種が同定できないカワハギ、猛毒クラゲに付く幼魚などなど。そんな香里武の24年間の採集史が覆された瞬間でした。「港でタコブネに出逢う」というハプニングは、想像すらしていなかったのです。

それでは出逢った直後の現地での映像をご覧ください。

 

 

彼らはタコの仲間ですが、自ら貝殻を作り、表層を漂って生活します。ちなみに殻を作るのはメスだけ。卵を保護するためと考えられているそうです。ただでさえ珍しいタコブネですが、この子は殻の大きさが2.4cmととても小さい! 我が家にあった成体の殻と比べると色や特徴も異なっていて、赤ちゃんならではの生態が垣間見られました。詳しくは…いずれまた。

 

タコブネの殻

殻の大きさを比較。右は1年前に海岸で拾った生体の殻

 

本来であれば水族館に寄贈するべき生き物なのかもしれません。が、僕は飼育まで含めての採集家です。かつて水槽内で5日間生かしたご経験のある沼津港深海水族館の石垣幸二館長のご助言のもと、温度管理を徹底して慎重に自宅に連れ帰りました。ただ、適水温もエサも、なにもかもわからないタコブネ。残念ながら水槽内でお亡くなりになってしまいました。こうしてまた、海の偉大さと生命の神秘を感じることとなりました。

 

成長と共に深場に 「クルマダイ」

クルマダイの幼魚

まだ黒いクルマダイの稚魚。体長約1.5cm。小さいけれど顔がゴツい

 

さて、せっかくの機会ですのでもう1種類。稚魚期を海面付近で過ごす深場の魚をご紹介しましょう。大きな目と鮮やかな赤色が特徴のクルマダイ。ダイバーの方ならお馴染みの魚でしょう。
小さい頃は、こんなふうに黒いんですね。このサイズは滅多に現れません。いたとしても、普通は黒豆が風で流されているようにしか見えないので、知らなければなかなか気づかず、観魚人にとっても難易度の高い魚でしょう。

 

クルマダイの成魚

写真:ぼうずコンニャク。成魚はやや深海性で、こちらもなかなかお目にかかれない

 

幼魚を飼育して観察すると、日々いろいろな顔を見せてくれます。例えばクルマダイなら、エサをモリモリ食べるので成長が速く、徐々に身体に白い縞模様が現れる様子を観察できます。さらに大切に育てれば、色の変化も見ることができるでしょう。こちらも映像がありますので、ぜひご覧下さい。

 

 

【クルマダイ】
学名:Pristigenys niphonia
スズキ目キントキダイ科 。
インド洋、西部太平洋、温・熱帯域の岩礁域に分布。
成魚は水深100m以深の砂泥底に生息、幼魚は水深20m前後の砂泥底の転石周辺で見られる。

 

改めて、漁港は本当に驚きの連続です。町でポケモンを探すのもいいですが、せっかくのアツい夏です。海に繰り出してみましょう。そして“足元の海”を楽しんでみてください。そこに素敵な出会いがあるかどうかは、あなたの信じる気持ち次第。魚がいると思えばいる、いないと思えばいない。それが岸壁採集家の心構えです。

 

さて、最後に今現在の我が家の水槽をご覧いただきましょう。4つのうち一番小さく、濾過システムが最もシンプルな45cm水槽。泳いでいる魚は全て近海の漁港で出逢った採集魚です。水槽の中には魚の社会が築かれ、観察しているとリアルな生態が見えてきて、それが次の岸壁採集に繋がる。家に帰るまでが岸壁採集、いえ、家に帰った後も岸壁採集は続くのです。

 

 

筆者プロフィール

鈴木 香里武さん

鈴木 香里武 (すずき かりぶ)

1992年3月3日生まれ。

(株)カリブ・コラボレーション代表取締役社長。学習院大学大学院心理学専攻在学中。幼少期から魚に親しみ、専門家との交流や様々な体験を通して魚の知識を蓄える。2008年、心理学の観点から観賞魚の印象や癒し効果について研究する分野「フィッシュヒーリング」を立ち上げる。日本心理学会認定心理士、カラーセラピスト、岸壁採集家。メディア・イベント出演、執筆等の活動をする傍ら、沼津港深海水族館の館内音楽企画等、魚の見せ方に関するプロデュースも行う。今年はプライベート水族館案内サービス「魚仲人」をスタート

 

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