連載「珍魚・変魚発見隊」第九回

珍魚・変魚発見隊

2016年10月19日

毎月一回 各隊員が綴る珍魚発見記

これは、珍魚との出会いを求め、海を駆け巡る魚マニア(発見隊)のストーリー。
幼魚から深海魚まで、彼らは見たこともない魚を求め、各地を飛び回る。
磯に漁港に、魚屋に……。魚の気配がある場所は、目を光らせて観察し、目ぼしい魚を見つければ、どこまでも追いかけてゆく。水の中でもなんのその。
今日もどこかで、誰かしら、珍魚と出会いに感涙する……。

そもそも”珍魚”とは何なのか?辞書には、「珍しい魚」、英語では「rare fish」とある。なかなかお目にかかれない魚、ということだろう。ここではさらに、隊員たちが発見した見た目が変わった魚「変魚」も含め、紹介しようと思う。
珍魚(変魚)探しは、隊員たちにとって、まさに宝探しのようなもの。出会えた時の感激は、言葉では言い尽くせない。

ところで珍魚や変魚、いったいどこに行けば会えるのか?実は、意外とその辺にいる。少なからず、隊員たちは、そういう場所をよく知っている。
何も深海まで行かなくても、ちょっと意識を傾けるだけで、その辺の海で、誰でも珍魚・変魚に会うことができるのだ。
ここに登場する隊員は、水族館の飼育係、岸壁採集家、磯観察のスペシャリストをはじめ、とにかく生きもの好きな人、海あそびを得意とする人たちだ。
水場があれば、すかざす覗き込む彼らはまた、”観魚人(うおノゾキスト)”と呼ばれることも。
彼らがこっそり体験しているディープな世界を覗いてみよう。(毎月15日掲載予定)

 

隊員9号:水族館プロデューサー・新野大さん

新野さん

水温が低くても、海パン一丁で水中観察する新野さん

 

長い柄のついた玉網を持って、岸壁を行ったり来たりしながら生き物の姿を求め、早や45年が過ぎた。でも、海にはいつも10代の僕がいる。
とはいえ、最近はちょっと年を感じる。どんな時かというと……。
テトラポットの上や潮の引いた磯を歩くときに、速く歩けない。昔は、跳ねるように移動できたのに……。電車で採集に行くときの、荷物が重い。昔は、ウエッスーツと採集器具を詰め込んだリュックサックを背負い、手には背丈より長い竹の棒(網の柄)、バケツ、腰には5キロのウエイトを巻いて通っていたのに。
何よりも、とっさに魚の名前が出てこない。頭の中には姿かたちが浮かんでいるのだが……情けない……。
でも、海に行くと気分は爽快、珍しい魚なんかを採集した時にはテンションMAX!そんなテンションの上がる採集に行ってきた!!

 

岸壁採集で、タツノオトシゴのペアに出会う

10月の初めに2連続で採集に行ってきた。場所はというと、三浦半島の磯と漁港。
初日は3連休の最終日。天気予報では日中は晴れマークが輝いていたので大学の後輩といざ出陣。
最初に行った磯は、天気予報とは裏腹に、空は雲に覆われ海面は暗く、潮も満ちてて寒そうだった。「陽が出てから入りましょうか?」という後輩の言葉を遮り「いや、入る!」と。裸はちょっと無理そうなので、ロングジョンに、ラッシュガードを着て海中を覗く。
想像通り、魚も少なくチョウチョウウオの幼魚が1匹とモンツキハギの幼魚の黄色い体にホッとしただけ。陽が出ていないので、寒さもひときわ、あきらめてサッサと撤収したのだった。
磯はダメそうなので、次は漁港で。ということで、中学~高校と毎週のように通った漁港へ。
漁港は綺麗に整備されてしまっていて、昔の面影はほとんどなし。ただ、コンクリートでできた生け簀の跡はそのまま残っていて、砂がたまって浅くはなっていたが、その中にヘビギンポやネズッポなど昔から変わらず、顔馴染みの魚たちの姿があった。コンクリートの隙間にはチョウハンの姿も。ちょっといい感じになってきたので、漁港を探索。
ここでは昔(昔の話ばかりだけど)、岸壁の上から色々なものが掬えた。だから長い網を持ってきていたのだ。特に水温の下がった時が面白い!水面にチョウチョウウオが浮かんで来たり、アオミシマの稚魚、ダンゴウオも。海藻の茂みに、スイや小さなハコフグ、そしてヒョウモンダコを採ったこともある。小さくかわいいタコで、黄色の体にコバルトブルーの模様が浮かび上がり、凄く綺麗なタコ!手の上に乗せていた……。帰って図鑑を読んでビックリ!!毒を持っていたのだ。噛まれると死ぬことも、と。噛まれていたら大変なことになっていただろう。無事でよかった!!今、各地の海で警告の張り紙が張られているようだが、昔からいたんですよ、最近話題の猛毒のタコ君。
そんな岸壁だが、この日は魚の姿がない。ポツン、ポツンとオヤビッチャがいるだけ。
越前の松島水族館に勤めていたことがある後輩が「越前にいる時に、岸壁を掬いあげてくるとタツノオトシゴが採れたんですよね」と。「そうだよね、海藻のあるところを掬うと入るよね。」と僕。小さな海藻の生えている場所がすぐそばにあったので「こんなところを掬うと入ったりして」。「なんて上手くいくわけがない!」などと話しながらそれを掬いあげると「いた!タツノオトシゴ!!!」嘘のようなホントの話だった。まさか話の通りになるとは。二人で大うけ!!その後もう1匹採集して、雄雌のペアだった。もうこれで、十分な収穫。喜んで帰路へついた。

 

タツノオトシゴ

岸壁で採集したタツノオトシゴ

 

はじめての出会いに興奮後、さらなる出会いが!

その3日後、タツノオトシゴに気をよくした僕は、中学~高校と毎週と言っていいくらい一緒に海に通った旧友と、ギョスプレ嬢王様とで再び三浦半島へ。
前回とは違い、磯に着くと薄日も射して暖かい。さっそく海に入ると、気のせいか水も温かく快適なのだ。魚もちょっと多いような気がする。
気のせいではなく、チョウチョウウオ類やスズメダイ類、ベラ類の稚魚、幼魚たちにたくさん出会った。大きな石の裏には、濃紫色をしたカメノコフシエラガイとミサキウバウオが。この2種は初めての出会いだった。ウミウシやウバウオはなかなか探して出会えるものではなく、偶然に出会うことを願うしかない。「今日はまず、これでOK!」と思っていたが、この後、驚きの出会いが何度も訪れることになるとは、誰も想像していなかった。

 

カメノコフシエラガイ

カメノコフシエラガイ

 

ミサキウバウオ

ミサキウバウオ

 

ウミウシとウバウオに満足して磯を後に、いつも立ち寄る佐島の魚屋さんで、最初の出会いにぶつかる。
干物を始めとする水産物の食の材料として使われている珍魚、珍食の採集も大好きな僕なのだが、そこでも初物に出会ったのだ。
その魚屋さんの干物も美味しいのだが、燻製もいい味を出している。サバのスモークでも買おうかなと思って覗くと、隅に小さめのパックに詰められた濃い茶色の四角い身がある。なんとパックには「マンタのスモーク」と書かれているではないか!
“マンタ”あの2種に分かれたオニイトマキエイかナンヨウマンタ???
お店の方に聞くと、長井や佐島で4年ぶりにマンタが捕れて、それを燻製にしたそうだ。あとでお店のSNSの写真を見ると、どうやらヒメイトマキエイのような感じだったが、マンタの“食”には初めての出会いで、思わず興奮してしまった。その味は、エイヒレを想像してはいけない。燻製されて身は細く裂けるので、ビーフジャーキーのようで、なんとも美味しかった!!

 

マンタの燻製

マンタの燻製

 

クロホシマンジュウダイの稚魚3匹&超珍魚・クサアジの稚魚を発見!

岸壁採集風景

長い網を持ち、岸壁採集をする新野氏

 

その後、4年ぶりに捕れたマンタの燻製に気分をよくして、旧友が探しておいてくれた気になる漁港へ向かった。
バスの通る大きな道路を外れ細い道を抜けると、こぢんまりした海岸が広がっていた。小さな砂浜と、長い突堤、小さな漁港もある。人も少なく、いい感じだ。
突堤の先端近くで、黒い体のオヤビッチャとやっと縞模様が出たカゴカキダイの1センチほどの稚魚を採集し、なんだか気になる漁港の岸壁に。
漁船を係留するロープの周りや岸壁の角にはアマモの切れ端がたまっている。「何かいそうだなぁ」と水面に目を向けると、黒茶色の丸い影が3つ並んで動いている。
この動き、形“クロホシマンジュウダイ”だ!とっさに網が動き、3匹はその中に納まった。まだ頭にトリクチス期の跡が残るクロホシマンジュウダイの稚魚だ。よく見ると体にオレンジ色も見えている。房総半島では、近年普通に稚魚が見られるが、三浦半島で出会ったのは今回が初めて。暖かい地方のマングローブ帯などでよく見られる種だ。熱帯魚店で“スキャットファーガス”といって売られていることもある。

 

クロホシマンジュダイの稚魚

クロホシマンジュダイの稚魚

 

ここでも興奮しながら、少し先を探すと3人が同時に「ん……?」「トビウオだ!」。水面下30センチ位のところを、鰭の大きな3~4センチの稚魚が漂っている。下に逃げられないように、網を沈めソッと掬いあげてきた。
稚魚もゆっくりと浮上を始め、水面下10センチ程のところに来たところで、勢いをつけて水面に向かって泳ぎ、水面から飛び出し大きな鰭を広げて40センチ程を飛行したのだ。やっぱりトビウオだ!!ここで一同大興奮!!飛び上がる瞬間、まだら模様がチラッと見え、一瞬“サガトビウオ”かな、と思ったのだが、網には入ってなかった。まだ水面近くにいたので、再度救い上げると、また飛び上がり、岸壁に当たって、落ちたところを瞬時に掬った!!!入れ物を取りに行っている間に、水面の網の中を見てみると、体は薄く丸い感じでまだら模様が入っている。褐色の大きな鰭は腹鰭だ!
トビウオではない!!!!!
頭の中の魚類図鑑を引っ掻き回すが、該当する魚が出てこない。トビウオ類以外に、あんなにきれいに飛翔する稚魚がいたなんて。凄い瞬間を目にしてしまった。3人、またもや大興奮。

 

クサアジの稚魚

残念ながら死んでしまったクサアジの稚魚

 

プラスチックのケースに入れて横から見ると、背鰭と臀鰭(しりびれ)も大きいのだが、褐色の楕円形の腹鰭がとびぬけて大きい。これを広げて飛んだのだ。その姿は、トビウオのような飛翔だった。もう驚きだ。
凄い稚魚に出会ってしまった。深海性のヤエギスかなんかの稚魚かなぁと思ったのだが……、口先がとがっているのが気になった。
平たい体つきとその模様は「どこかで見たようだなぁ」とチラッと思ったのだが、その魚の名前が浮かんでこない。これは稚魚図鑑で調べるしかないと。

興奮したままの3人は、すぐそばのアマモ破片がたまっているところで、今度は枯れ枝につかまっている、タツノオトシゴを発見!なんと、タカクラタツの成魚だった。
何回興奮させられる日なのだろう、おかげで少し疲れた。

 

タカクラタツの成魚

タカクラタツの成魚

 

飛翔する稚魚は、残念ながら移動中に横になり、家に着いた時には死んでしまっていた。さっそく、写真に収めるため、鰭を広げようとしたのだが、固まっていて開かず。無理に広げるとボロボロになってしまいそうなので、あきらめてそのまま撮影し、固定した。全長4センチ程だ。
その後、稚魚図鑑を1ページずつめくり、その稚魚の図を探したが、同じものは見当たらなかった。一通り見終わったとき、採集した時に頭をよぎった、どこかで見たことのある模様が、クサアジだったことを思い出して、稚魚図鑑のクサアジのページを再度見たのだが、ヒメクサアジの稚魚は載っているも、クサアジに関しては情報がないと書かれていた。 クサアジの成魚と、口先の感じや、幼魚に現れる体の模様、背鰭、臀鰭はよく似ているが、腹鰭が全く違った。その他手元の図鑑類にもクサアジの稚魚の図や写真はない。そこで、魚類写真資料データベースでクサアジを検索してみると、八丈島で撮られた稚魚の写真が載っていて、その個体の腹鰭も大きなものだった!やはりクサアジか!写真の個体は大きさが記載されていなかったが、今回採集したものより大きそうだった。
大きな腹鰭はアジの仲間の稚魚でも見られるが、アジの仲間は口が大きいので顔つきが全く違う。口先からの連想が当たったようだ。
クサアジは、アカマンボウ目に属する魚で、その仲間には深海魚が多く、リュウグウノツカイやフリソデウオの仲間などがいる。成魚の情報も少ないようだが、稚魚はもっと知られていないようだ。
それも、あの薄い体で、腹鰭を広げ水上を飛翔するなんて。腹鰭が大きいのは、稚魚たちが、海中を浮遊するのに浮力を増すために大きくしているものだとばかり思っていた。が、空中を飛ぶなんて。目から鱗の大発見だった!
あとで皆で映像を撮っておけばよかったと……。
あの力強く素晴らしい飛翔は、3人の目の奥に記録されているだけの、貴重な映像となった。
これだから、採集はやめられない。

 

クサアジの稚魚

クサアジの稚魚

 

クサアジの幼魚

クサアジの幼魚。模様が稚魚のよう

 

クサアジの成魚

クサアジの成魚。稚魚期とは見た目がまるで違う

 

筆者プロフィール

新野 大さん

新野 大(にいの だい)

1957年、東京生まれ。東海大学海洋学部水産学科卒業。

大学卒業後、新潟県瀬波水族館、青森県営浅虫水族館開館準備を経て、海遊館開館準備のため大阪ウォーターフロント開発㈱に入社。2005年からフリーとなり新しい水族館のプロデュースをする傍ら、執筆活動も行なう。著書に『水族館のひみつ』(PHP研究所)『水族館のひみつ図鑑』(PHP研究所)『干物のある風景』(東方出版)、『大阪湾の生きもの図鑑』(東方出版)、『魚の顔』(東方出版)、他に雑誌などへの連載も多数。

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